裏方スタッフの笑い声の意味

7,8年ぐらいまえ、務めていた会社社長の同級生だった大手芸能事務所の社長から、「これからはインターネット配信だ、今実験的に初めているが、ネットに詳しい奴がいないので意見が欲しい」と依頼が来た。

その過程で、実際に放送するネット番組を収録するスタジオにお邪魔したことがある。 テレビの番組を撮影している制作会社が撮影を行い、配信用に変換して配信しているとのことだった。

出演者と、それぞれのマネージャ、現場のプロデューサー、ディレクター、放送作家、アシスタント、見えないところにはPAさんなども居たようだ。その他我々のような何をやってるかわからない人々。3人しか写ってない番組のカメラの後ろにいる多くの人々。

勝手がわからない僕らは、音が入ってはいけないと、声を殺して物音一つ立てずに静かにしていた。

しかし、収録が始まった途端、スタッフが声を出して笑う。声高らかに笑う。さっきまでボソボソと打合せをしていた作家もこんな声出るんだというほど笑う。同僚に「あの人達ゲラなのかな」と耳打ちをしたりしていた。


最近、オードリー若林の本が面白いというので買って読んだ。 その中で、盲目の少年が落語家に落語を教わる話というのがある。

そして、何より難しいのは「少年が落語をしている時に人がちゃんと聴いてくれているかどうかの情報が笑い声しかないから稽古中にもなるべく声を発してあげながら聴かないと段々とテンションが下がっていってしまう」ことらしい。なので、落語の噺を選ぶ時も笑いが起こる回数が多いものを選ぶと教えてくれた。

若林正恭.社会人大学人見知り学部卒業見込.株式会社KADOKAWA、2015、 p.186、(角川文庫).

これを読んだとき、前述した話を思い出した。面白いから笑う、まぁそれもあるだろう。しかしそれだけではなかったのではないだろうか。客が居ない現場で、相手が見えない中で、自分に返ってくる反応がないままで、うまく自分の中の物を表現するのはむずかしい。笑い声は、相手との共感の確認だったんだろう。

たしかに、自分が友人と楽しく話してる少し離れた場所で、腕を組みながら時折横の人と耳打ちをする人がいたら、気分のいいものではない。そんな場違いな男達が立っていたことを申し訳なく思う。

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫)
完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫)
作者: 若林 正恭
出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
発売日: 2015-12-25
売上順位: 1467